■原告
■上記
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は原告に対し,1780万円及びこれに対する平成11年10月8日から支払済みまで,年6分の割合による金員を支払え。第2事案の概要
本件は,原告が被告に対し,後に被告と合併した住友海上火災保険株式会社(以下「住友海上」という。)との間で締結していた賃借店舗の内装設備及び同店舗内の什器備品を保険目的とする店舗総合保険契約及び同店舗の休業損害の填補を目的とする店舗休業保険契約に基づき,同店舗の全焼による上記保険目的の時価及び休業損害につき各保険金の支払を請求したのに対し,被告が,保険目的の全部又は一部が原告所有のものではなく被保険利益がないこと,本訴提起前の保険金請求において保険の目的及び休業損害に関し不実の申告があり又は上記損害が原告又はその教唆による同店舗従業員の放火に因るものであるため保険約款に基づき免責されること及び仮に免責が認められないとしても原告申告の損害額が過大であることを主張して,保険金の全部ないし一部の支払を争った事案である。1争いのない事実等(被告が明らかに争わない事実,公知の事実,裁判所に顕著な事実,各項末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実を含む。)
(1)1訴外A株式会社は,平成9年11月10日から同年12月15日の間,訴外Bから委託を受けて管理中の老朽化した同人外2名所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件店舗」という。)を原告に風俗業店舗として賃貸する目的で,約700万円の費用を出捐して同建物本体の改修工事(以下「A施工分」という。)を行い,Bから内金400万円の支払を受け,残金を自己負担しており,原告はA施工分について所有権を有しない(甲8,10,乙3)。
2Bは,同年11月10日,A株式会社に対し,本件店舗を以下の約定で賃貸した(乙3。以下「本件店舗原賃貸借契約」という。)。
ア期間同年12月1日から平成12年11月30日
イ使用目的店舗
ウ月額賃料12万円(共益費5000円を含む。)
エ支払方法毎月末日翌月分前払い
オ保証金36万円
3A株式会社は,平成9年11月10日,原告使用人訴外Cこと原告に対し,訴外D株式会社の代表取締役Eの仲介で,本件店舗を,以下の約定で賃貸した(甲1,8。以下「本件店舗転貸借契約」という。)。
ア期間同年12月1日から平成12年11月30日
イ使用目的クラブ,事務所,更衣室
ウ月額賃料20万円
エ支払方法毎月末日翌月分前払い
オ保証金150万円
(2)訴外F株式会社は,平成9年12月1日ころ,発注者名義を訴外Gとする工事請負契約書に基づき本件店舗の内装設備工事に着工し,同月14日ころこれを完成させ(以下同施工部分を「F施工分」という。),同月24日C名義で風俗店H(以下「本件風俗店」という。)を開業した(甲8,乙3)。
(3)原告は,同月26日,住友海上との間で,Cを保険契約者名義とし,保険期間の終期を平成10年12月26日とする店舗総合保険普通保険約款(以下「店舗基本約款」という。)及び店舗休業保険普通保険約款(以下「店舗休業約款」という。)に基づく,以下の保険契約を締結した(甲2の1,乙8の1及び2)。
1基本契約保険金
ア住友海上は原告に対し,火災事故によって保険の目的である原告所有の業務用の本件店舗内の設備(内装)又は本件店舗に収容される什器(店舗基本約款第3条1項,4項及び7項)について生じた損害に対し,損害保険金を支払う(店舗基本約款第1条)。
イ住友海上は原告に対し,上記アの損害保険金の3割を臨時費用保険金として支払う(店舗基本約款第1条8項)。
ウ住友海上は原告に対し,本件店舗内の原告所有の業務用の従物及び設備(造作)についての前記アの損害保険金の1割を残存物取片づけ費用保険金として支払う(店舗基本約款第1条9項)。
エ住友海上は原告に対し,被災世帯(本件の場合には,原告,A株式会社及びBである。)の数に20万円を乗じた額を失火見舞費用保険金として支払う(店舗基本約款第1条10項,第10条)。
オ店舗保険約款に基づく保険金(以下「基本契約保険金」という。)の最高限度額は保険証券記載の1000万円である。
2店舗休業保険金
ア住友海上は原告に対し,保険金額に休業日数を乗じた金額(以下「店舗休業保険金」という。)を支払う。
イ(ア)但し,1日当たりの保険金額は,その上限が保険証券記載額(本件では35万円)であり,かつ,復旧期間内の売上減少高に支払限度率(最近の会計年度の粗利益額にその1割を加算した額の同期間内の売上高に対する割合。
店舗休業約款第4条(5))を乗じて得た額から復旧期間内に支払を免れた経常費等(同条(4))の費用を差し引いた残額であり(同約款第5条(1)),
(イ)また,保険される休業日数は,保険証券記載日数(本件では3か月間)以内であり,かつ,実休業日数である。
3免責特約
ア店舗基本約款第26条第4項,店舗休業約款第18条2項
住友海上は,原告が提出書類につき知っている事実を表示せずもしくは不実の表示をしたときは,保険金を支払わない(以下「不実表示記載免責約款」という。)。
イ店舗基本約款及び店舗休業約款の各第2条1項(1)
住友海上は,原告の故意もしくは重大な過失または法令違反に因って生じた損害に対しては保険金を支払わない(以下「故意等行為に基づく免責約款」という。)。
(4)原告は,平成10年12月28日,住友海上との間で,自己名義で,上記(3)の保険契約を承継し,保険期間の終期を平成11年12月28日とするものの,その余の点については上記(3)の1ないし3と同じ内容の保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した(甲2の2,乙8の1及び2)。
(5)1本件店舗は平成11年4月15日午前1時50分ころ全焼し(以下「本件火災」という。),愛知県I市消防本部所属消防士長Jという。)は本件火災の出荷箇所を待合室内の出入口北側床上付近,発火源を煙草,着火物をゴミ屑,概要について「ビニール製ゴミ袋に煙草の吸い殻を捨てたことにより,残っていた火種がゴミ袋内に燃え移り,火災に至ったもの。」と認定する同年6月9日付火災調査書(以下「本件火災調査書」という。)及び火災原因認定理由書(以下「本件火災原因認定理由書」という。)を作成した(甲8,乙6)。
2原告は,同年4月14日以前の1年間において,日額平均13万円を売り上げていた。
(6)原告は同年4月16日A株式会社に対し本件店舗の改修工事を発注し,A株式会社は同年6月10日ころ本件店舗の改修工事を完成して原告に対し工事請負代金749万9629円を請求したが,原告は同月14日本件風俗店の営業を再開した後も上記代金を弁済していない(甲8,13)。
(7)住友海上は,同年5月12日ころから同年10月8日ころまでの間,訴外Kに対し,本件店舗における営業開始に要した費用,本件店舗内の動産類及び本件風俗店の売上についての調査を依頼し,同人が雇用する訴外Lが上記調査を担当し,原告はこれに協力した(甲10,証人L)。
(8)原告は,同日,L,E及びEの妻立会の下,初めて,本件保険契約に基づく正式な保険金請求のための「確認書」と題する以下の書面(以下「本件確認書」という。)を作成し,Lを通じて住友海上に提出した(甲3,9,10,証人L,同E,原告本人)。
1什器備品類の損害請求額696万1000円
2造作物保険金請求額 1588万0600円
ア改装工事費用1200万円
イ 内訳
(ア)F株式会社500万円
(イ)A株式会社700万円
3休業保障1日当たりの休損請求額35万円
(9)住友海上は原告に対し,前項の保険金請求が前記(8)2イの不実表示記載を含む請求であり,その支払を拒絶する旨の平成12年3月3日付書面を,不実表示記載にあたる以下の損害請求を特定する同月14日付書面を,それぞれ送付した(甲4の1及び2,5)。
1A施工分の前記(8)2イの改装工事費用相当損害請求
2住友海上推定売上日額13万円を著しく超過する前記(8)3の損害請求(10)被告は,平成13年10月1日,住友海上を合併し,その原告に対する権利義務関係を包括的に承継した。
2原告の主張
(1)本件店舗の内装設備についての被保険利益の存在
1A施工分について
原告はA株式会社に対し同社施工分の代金を支払っておらず,B及びA株式会社がこれを負担しているから,B及びA株式会社がA施工分の内装設備の所有者である。
しかしながら,原告はA株式会社に対し,その際,上記代金相当額の償還に見合う月額8万円を相場の賃料12万円に上乗せして支払うことを約してこれを支払ってきており,少なくともリース形式の賃貸借契約に基づき上記施工分のうちA株式会社負担分の300万円について実質的に負担していたからこそ,付保可能と信じてこれを保険の目的としたのであって,被保険利益を有する。
2F施工分について
原告は,平成9年12月1日,F株式会社との間で,G名義で,F施工分につき,代金を480万円とする工事請負契約を締結し,同月14日その完成引渡を受け,既に代金内金345万円を支払ったのであるから,F施工分につき所有権を有し,被保険利益を有する。
(2)故意に基づく本件確認書上の不実表示記載の不存在
1A施工分について
原告は,A施工分について被保険利益がないとしても,本件確認書作成の際,Eのリース店舗の主張に関する助言があり,Lもこれにつき保険金の請求をすることの正当性について了解していたため,被保険利益があるものと誤信していたのであるから,故意に基づく不実表示の記載をしたものとは言えない。
2休業保障について
原告は,売上資料が保存されていなかったため,前記第2の1(8)3の記載をしたのであって,故意に基づく不実記載の意図はなかった。
(3)本件火災原因が原告等の放火ではないこと
1動機の不存在
被告は,後記3(3)のとおり,原告が約450万円の負債を抱えて経済的に逼迫していたことが,放火の動機であると主張するが,訴外M,E及びF株式会社のいずれからも督促を受けておらず,何ら経済的に逼迫していなかった。
2放火の可能性がないこと
消防士長Jは,本件火災原因認定理由書において,「本件店舗西側窓ガラスの出入口側が約5センチメートル開いている状態であり,同窓部分に設置されている約7センチメートル間隔のアルミ製格子から火を放つことも可能な状態であるが,燃えの強い箇所に手が届く距離ではない。」として,放火の可能性について否定しており,本件火災が何者かによる放火を原因としているとは言い難い。
(4)損害額について
1基本契約保険金額について
アA施工分の保険金額は,以下のとおり,270万円である。
300万円(A株式会社費用負担分)×(10.05(木造モルタル造,飲食店用建物の減価償却率)×2(経過年数))=270万円
イF施工分の保険金額は274万1915円である。
ウ什器・備品の保険金額は,原告が愛知県I市消防本部に提出した焼失収容物調査票(以下「調査票」という。)記載の402万3000円からF施行分の損害額と重複する部分を控除した残金246万8997円である。
エ臨時費用保険金額は,前記アないしウの和に3割を乗じた237万3273円である。
オ残存物取片づけ費用保険金額は,前記アとイの和に1割を乗じた54万4191円である。
カ失火見舞費用保険金額は,被告主張のとおり,60万円である。
キしたがって,原告が被告に対し請求できる保険金額は上記アないしカの合計額1142万8376円のうち,最高限度額の1000万円である。
2休業損害保険金額について
ア後記3(4)2の計算過程については,以下のイ,ウの点を除き合理的であると思料する。
イ原告は,本件店舗の休業期間中もN店長に給料を支給していたのであり,100万円(予備的には80万円)の経費の支払いを免れていない。
ウ原告は,本件店舗復旧までの本件風俗店の女性従業員4名の転職を防ぎ,復旧後直ちに営業を再開するために,休業期間中1人当たり1日15000円ずつ,合計360万円の所得保障経費を負担したのであり,これを経費として認めるべきである。
エしたがって,原告の休業損害保険金請求としては,以下のとおり,少なくとも672万1080円が認められるべきである。
売上日額13万円×休業日数60日×支払限度率0.5386支払を免れた経費108万円+女性従業員所得保障経費360万円=672万1080円
(5)結論
よって,原告は被告に対し,本件保険契約に基づき,基本契約保険金1000万円及び店舗休業保険金780万円(売上日額13万円に休業日数60日を乗じた額)並びにこれらに対する保険金請求日である平成11年10月8日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3被告の主張
(1)本件店舗の内装設備についての被保険利益の不存在
1A施工分について
原告は,本件店舗の改装工事費用のうちA施行分である700万円につき自己負担しておらず,本件店舗所有者であり原賃貸人である訴外B及び転貸人であるA株式会社がその改装工事費用の負担をしており,その部分について原告の所有権がなく,本件火災によって損害を受けるおそれのある利益を有していないから,被保険利益もない。
2F施工分について
F施工分の改装工事請負契約の注文者はGであり,Gがその完成引渡を受けて所有権を取得したのであるから,原告にはF施工分につき所有権がなく,被保険利益もない。
(2)故意に基づく本件確認書上の不実表示記載の存在
1原告は,上記(1)1の事実を認識していたにもかかわらず,本件確認書に前記1(8)2のア及びイ(イ)の記載をした。
同記載は,故意に基づく不実表示記載であるから,被告は不実表示記載免責約款に基づき,本件保険契約に基づく基本契約保険金の支払義務を免れる。
2原告は,被告調査による推定売上日額が13万円であり,原告が被告に提出した平成11年9月14日付「質問返答書」の記載内容が真実であるとしても売上日額が26万円に止まるにもかかわらず,前記1(8)3のとおり売上日額35万円の記載をした。
同記載は,故意に基づく不実表示記載であるから,被告は不実表示記載免責約款に基づき,本件保険契約に基づく店舗休業保険金の支払義務を免れる。
(3)本件火災原因が原告等の放火であること
本件火災原因は,本件風俗店従業員の煙草の不始末に因る失火ではなく,放火によるものであって,その放火は保険金を取得しうる利益を有し,かつ,少なくとも約450万円の負債(Mに300万円,Eに100万円及びF株式会社に50万円)があって経済的に逼迫していた原告がその損害額以上に保険金を取得することを目的として敢行したものと推認できるから,被告は故意等行為に基づく免責約款により本件保険契約に基づく保険金支払義務を免れる。
(4)保険金額
1基本契約保険金額について
仮に,F施工分について被保険利益があり,前記(2)1又は同(3)に基づく基本契約保険金の支払義務につき免責がないとしても,
ア原告がF施工分について所有権を有するとすれば,本件火災によるその損害保険金額は241万9208円である。
イ原告の什器備品の損害額は98万0700円である。
被告は調査票記載の時価総額を否認する。
ウ臨時費用保険金額は前記ア及びイの和に3割を乗じた101万9972円である。
エ残存物取片づけ費用保険金は前記アに1割を乗じた24万1920円である。
オ失火見舞金費用保険金は60万円である。
カしたがって,基本契約保険金額は上記アないしオの合計526万1800円に止まる。
2休業損害保険金額について
仮に,前記(2)2又は同(3)に基づく店舗休業保険金支払義務につき免責がないとしても,本件火災による休業損害保険金額は,以下のとおり,212万1080円(以下のア×イ×ウエ)である。
ア売上日額13万円
イ復旧期間60日
ウ支払限度率0.5386(以下の(ウ)×1.1÷(ア))
(ア)年間推定売上高約4689万6000円
(イ)年間商品仕入高約2393万1000円(下記のあ+い+う+え)あ女子従業員給料 約2344万8000円(上記(ア)の5割)
いうがい薬代約4万5000円
うおしぼり代約21万6000円
え飲料代約22万2000円
(ウ)年間粗利益額約2296万5000円(上記の(ア)(イ))エ復旧期間内に支払を免れた経常費等の費用2ヶ月分
(ア)電気代14万円
(イ)ガス代3000円
(ウ)水道代3000円
(エ)N店長の給料100万円(支払の義務及び事実を否認する。)(オ)有線放送代1万4000円
(カ)クリーニング代12万円
(キ)広告宣伝費80万円
(ク)合計208万円
オ原告は,前記2(4)2ウの所得保障経費が保険金給付の対象となるべき損害であると主張するが,被告は,その支払いの事実を否認する。
また,仮に同事実があったとしても,女性従業員と原告とは,来店客に対するサービスを提供した対価の一定割合について報酬を得る契約を締結していたに過ぎず,接客のない限り原告が当然に上記金額の支払義務を負うものではないから,上記所得保障は原告が将来の事業のため先行投資をしていたに過ぎないものというべきである。
したがって,上記所得保障経費は,損害とは認定できず,店舗休業約款上も損害認定の対象とはされていないことから,上記原告の主張は理由がない。
4争点
(1)本件店舗の内装設備についての被保険利益の有無
(2)原告による故意に基づく本件確認書上の不実表示記載による免責の有無(3)原告等の放火による免責の有無
(4)保険金額
第3争点に対する判断
1本件店舗の内装設備についての被保険利益の有無について(1)A施工分について
原告が本件店舗の内装設備のうちA施工分につき所有権を有さないことは前記第2の1(1)1のとおりであり,原告が同施行部分について被保険利益を有さないことは自明である。
原告は,本件店舗転貸借契約に基づく賃料と本件店舗原賃貸借契約に基づく賃料との差額がA株式会社負担の300万円に充てられるべき賃料の上乗せであり,実質的にはリース形式なので同金員の限度では被保険利益を有する等と主張し(以下「リース店舗の主張」という。),同主張にはこれに沿う供述証拠もある(甲11,証人E)。
しかしながら,A株式会社が上記賃料の差額を収受しても同社負担の300万円に充当するために必要な37.5か月間に生じる本件店舗の賃借及び転貸にかかる経費をその後に回収せざるを得ず,かつ,その間金利はもとより全く利潤が得られないこ
とになるうえ,証拠(甲1,証人E,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告には,A株式会社又はEが原告に対し本件店舗転貸借契約に際し同契約がリース契約であるという趣旨の説明をした旨の記憶がないこと,本件店舗転貸借契約の存続期間が上記300万円の償還に足りない2年間とされており,しかも,同契約にはその償還が終了するまでの原告による契約更新拒絶を制限する特約がなく,他方,原告がA株式会社に対しその償還が終了した後に賃料8万円の減額を請求できる旨の特約や原告がその償還後にA施工分でかつ同社費用負担分につき所有権を取得する旨の特約もないこと,以上の各事実が認められ,上記認定を覆すに足りる証拠はない。
以上の各事実によれば,本件店舗転貸借契約が通常の賃貸借契約に外ならず,リース契約でないこと
は自明であり,かつ,前記賃料差額が原告をしてA株式会社負担分の300万円につき実質的に負担させる趣旨であり,原告がその滅失毀損により実質的に所有者に準じた損害を被るおそれがあるものとも認められない。
したがって,原告にはA施工分につき被保険利益がなく,その余の点について判断するまでもなく,被告には同施工分につき本件保険契約に基づく基本契約保険金の支払義務は認められない。
(2)F施工分について
前記第2の1(2)の事実と証拠(甲16,17,乙2,3)及び弁論の全趣旨によれば,原告が平成9年12月1日F株式会社との間でG名義でF施工分につき代金を480万円とする工事請負契約を締結し,同月14日その完成引渡を受け,既に代金内金345万円を支払ったことが認められ,上記認定を覆すに足りる証拠は認められない。
したがって,原告は,F施工分につき所有権を有し,被保険利益を有するものと言わねばならず,これとは反対趣旨の被告の主張は採用できない。
2原告による故意に基づく本件確認書上の不実表示記載による免責の有無につい(1)まず,原告が本件確認書上にA施工分の700万円を損害として記載したことが,不実表示記載にあたるか否かについて判断する。
1前記1(1)及び前記第2の1(1)の1及び3並びに前記第2の1(8)2イの各事実と証拠(甲8,10,乙2,3,証人E,同L,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,BがA施工分の内装設備工事代金の一部を同社に支払い,同社が残金相当額を自社工事分として出捐したのであって,原告がA株式会社に対し同代金を全く支払っていなかったこと,そして,原告が同施工分の所有権を有さず,本件火災による同施工分の焼失によって実質的に損害を受けるおそれもなく,同施工分につき被保険利益を有さないこと,原告が本件火災の約1週間後に基本契約保険金の給付対象が本件店舗開設時の造作(内装設備)であることを知ったこと,そこで,原告がLに対し平成11年5月12日ころから同年7月1日ころまでの間F株式会社のみを本件店舗内装設備の
工事請負業者として上げ,A株式会社については工事請負業者であるとは主張しなかったこと,ところが原告がLに対し同年7月上旬から同年9月上旬までの間A株式会社が代金700ないし800万円で本件店舗開業時の内装設備工事を請け負い,自ら4ないし5ヶ月間で同代金を完済した旨の虚偽主張をしたこと,A株式会社がLに対し上記虚偽主張を裏付ける平成11年7月28日付確認書を提出したこと,原告が同年9月中旬ころ住友海上名古屋支社において同支社担当のOに対しA施工分につき工事代金を支払ったとの主張を撤回して本件店舗転貸借契約に基づき保証金及び本件火災までの賃料を負担したに過ぎない旨を陳述したこと,E及びA株式会社がLに対しそのころリース店舗の主張をし始めたこと,原告が平成7年ないし平成8年ころ破産宣告を受
けていたこと,原告が平成10年1月ころEから70万円を借り受けていたこと,Eが本件店舗転貸借契約を仲介しただけではなくA株式会社と20年以上の取引上の付き合いがあること,原告が本件火災前からの負債に加えて本件火災後にA株式会社に対する本件店舗復旧工事請負代金支払い債務を含めた複数かつ多額の負債を抱えるに至っていたこと,原告が本件保険契約に基づく保険金の支払いがないことを理由として上記各負債の支払をしていないこと,Eが当初から本件保険契約に基づく保険金請求について原告の相談に乗ってきたこと,原告が本件確認書作成の際リース店舗の主張の意味を必ずしも理解していたものとは言えなず,かつ,住友海上の方で自動車保険契約に基づく事故の損害査定の場合と同様に不当な請求を削るであろうとも考えつつ
,同席していたEの助言に従い本件確認書にA施工分を損害として記載したこと,原告がその際EからBが内金400万円を出捐したことを聞いていたこと,以上の各事実が認められる。
以上の各事実によれば,原告は,A施工分につき自ら発注して代金を負担していなかったため,元々これにつき保険金請求ができるとは考えていなかったところ,本件確認書作成時点では,上記保険金の支払いに深い利害関係を有していたEからリース店舗の主張に沿う前記第2の1(8)2のア及びイ(イ)の記載をするよう助言されると,必ずしもその意味を理解していたわけではなく,少なくともB負担分については何らの被保険利益もないことを知り,かつ,住友海上が後に支払拒絶するとも予想しながら,自らの経済的苦境からA施工分相当額の保険金の受領に固執し,EひいてはA株式会社の意向に沿う意図で,あえて,同主張に便乗し前記記載をしたものと推認できる。
そうすると,前記記載は,原告が約5か月間にわたりその主張を変転させた挙げ句
に,同施工分のうち,B負担分については確定的に,A株式会社負担分については確定的又は未必的に,重要事実である被保険利益のないことを認識しつつ,あえて,被保険利益があるという正式な虚偽主張を明示したもので,故意に基づく不実表示記載にあたると評価すべきである。
けだし,不実記載免責約款は,保険契約における信義誠実の原則に基づき,損害が発生した場合に,保険者が迅速に損害填補責任の有無を調査し,かつ,適正な填補額を決定できるようにするために設けられた規定であることは自明であり,前記記載は住友海上による迅速な調査ないし適正な決定を故意に基づきより一層妨げる態様のものと言うことができるからである。
2以上に対し,原告は,A施工分について被保険利益がないとしても,本件確認書作成の際,被保険利益があるものと誤信していたのであるから,故意に基づく不実記載をしたものとは言えないと主張し,同主張にはこれに沿う原告本人作成の陳述書(甲8)の陳述部分及び原告本人の供述部分並びにE作成の陳述書(甲11)の陳述部分並びに同人の供述部分がある。
しかしながら,原告が上記1のとおり本件確認書作成以前にA株式会社に対し同社施工分の改修工事を発注し同社からその完成引渡を受けた事実がないにもかかわらず,そのような事実があるとしてLに対しその焼失による損害を主張し,A株式会社がLに対しこれを裏付ける確認書を提出したのは,原告もA株式会社も原告にA施工分についての所有権がない以上被保険利益がなく,同施工分の時価相当額の保険金の給付を受けられないことを知っていたのに,原告の経済的苦境を少しでも改善するとともにA株式会社の原告に対する本件店舗復旧工事請負代金債権の弁済に充てて,最も世話になっているEないしA株式会社のために同施工分の保険金給付を受けることに固執していたためであると推認できる。
また,前記第3の1(1)のとおり本件店舗転貸借
契約はリース契約とは異なる内容であるからこそ原告にはA株式会社又はEが原告に対し本件店舗転貸借契約に際し同契約がリース契約であるという趣旨の説明をした旨の記憶がないものと考えられ,そのような原告がEから降って湧いたようなリース店舗の主張を誤信するに至るというのは不自然極わまりない。
更に,原告は,前記第3の2(1)1のとおりBがA施工分のうち400万円を出捐していたことを聞きながら,前記第2の1(8)2イ(イ)のとおり本件確認書において被保険利益につき全く説明のつけようがないB負担分を控除せずにA施工分全部を損害として記載しており,その虚偽性は拭い難い。
しかも,LがA施工分につき保険金請求をすることの正当性につき了解していた旨のEの供述部分は,これとは反対趣旨のLの供述部分及び前記第3の2(1
)1において既に認定したEの本件保険金請求に関する深い利害関係に照らし俄に採用することはできない。
以上の各事実によれば,上記1の認定に反する前記各供述証拠を俄に採用することは到底できない。
(2)次に,原告が本件確認書上に前記第2の1(8)3の記載をしたことが不実表示記載にあたるか否かについて判断する。
1まず,原告が本件火災直前1年間に本件風俗店営業により日額平均13万円を売り上げていたに止まることは前記第2の1(5)2のとおりであるところ,原告が本件確認書には日額35万円の休業損害請求を記載したことは同1(8)3のとおりであり,また,証拠(乙2,3,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告においても本件火災前1年間の日額平均売上が平成11年7月1日付の質問返答書記載の約28万円及び同年9月14日付の質問返答書記載の約26万円にすら届いておらず,正直な経営実感として普通の日で約13万円程度,高い日でも約20万円程度であって,1日平均35万円には遠く及ばなかったことを認識していることが認められ,上記認定を覆すに足りる証拠はない。
上記各事実によれば,前記休業損害請求の記載が原告の故意に基づく著しい不実
表示の記載であり,住友海上による適正な填補額の決定を故意に妨げる態様のものと言うことができる。
2これに対し,証拠(甲9,証人L,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告が本件確認書作成の際Lに対し売上資料が保存されていなかったため「特に算出方法はありませんし,計算方法も分かりません。
1日35万円の保険に加入していたので一応請求しますが,1日に35万円も貰えるとは思っていません。」旨を陳述したことが認められ,原告は,Lが真実とは異なることを知りつつ1日当たり35万円と記載することを薦めたのであるから,同陳述がその査定を住友海上に全面的に委ねる趣旨であって,不実記載の故意はない旨を主張ないし供述する。
しかしながら,Lが真実とは異なることを知りつつ1日当たり35万円と記載することを薦めた旨の原告の供述部分は,これとは反対趣旨のLの供述部分に照らし,俄に採用することはできない。
また,原告がL又は住友海上名古屋支社に対し本件火災後保険金請求の基礎となる事実関係ないし主張を変転させてきたことは前記第3の2(1)1のとおりであり,かつ,本件確認書が原告の住友海上に対する初めての正式な保険金請求のための書面であることも前記第2の1(8)のとおりであるから,本件確認書は原告の請求額を確定させ,住友海上ないしLが保険金給付の当否を判断する重要書類であったことは自明である。
そうすると,前記休業損害請求の記載とは外形的に矛盾する上記陳述の意味は,前記休業損害請求の記載が現存する売上資料を根拠とするもの
ではなく不正確であり,これを住友海上の査定により多少削られても仕方がないという趣旨には解することができるとしても,原告の正直な経営実感ともかけ離れた出鱈目な記載であり,休業損害日額の査定を住友海上に全面的に委ねる趣旨であることを陳述したものとは到底解されない。
けだし,後者の趣旨であるとすれば,「1日当たりの休業損害額不明」を意味し,原告が損害額の主張立証責任を負うことが自明である保険制度上,これを請求しなかったことに等しいからである。
ところが,前記休業損害請求の記載が原告の正直な経営実感ともかけ離れたものであることは,上記1のとおりである。
したがって,前記陳述があることによって,原告の前記主張を俄に採用することはできず,前示1の判断が左右されるものとも言えない。
(3)以上によれば,被告は,本件保険契約に基づく基本契約保険金及び店舗休業保険金のいずれについても,その余の点について判断するまでもなく,原告が本件確認書に不実表示の記載をしたことにより,不実表示記載免責約款に基づき,免責されるものと言わねばならない。
第4結論
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